11月23日、宗次ホールにて、初の「歌声クラシック」が開催されました。
盛夏に決定し、晩秋のこの日を待ちわびていた私は、客席で胸をワクワクさせながら舞台を見つめていました。
ソングリーダーとピアニストが登場し、ピアノの軽快なイントロに乗せてシューベルトの「鱒」が歌われ、歌声クラシックの幕開きです。
こじんまりとしたホールながら、響のすばらしさで定評のある、正にクラシックの殿堂と言える宗次ホール。
本来、観客は席で静かに演奏を聴くのが原則のホールで皆が歌う、と云う初の試み。
どのような進行になっていくのでしょうか。
「今日はお客様が主役です。 一緒に音楽会を作り上げましょう。」 と言うリーダーの言葉は、ちょっぴり緊張気味のお客様をどんなにかリラックスさせてくれたことでしょう。
軽く発生練習をして、1曲目は「旅愁」 誰もが良く知っているこの歌で、会場の空気も一気に歌声モードに変わった様に思えました。
2曲目は、「シューベルトのセレナーデ」 切ない小夜曲は、歌とピアノが掛け合いの様に進むので、ソングリーダーが手振りを交えて巧みにリードしてくれました。
このソングリーダーの渾身のハンドジェスチャーは、今回の歌声の特筆すべきものであり、「これのお陰で知らない曲も何とか付いてゆけた」とは、私だけで無く大勢の方から聞かれた感想でした。
3曲目は、「ウイーン我が夢の街」
私は知らない曲だったのですが、3番まで歌い進むにつれてメロディーにも馴染み、何となく歌えるようになっていました。
4曲目は、「アニーローリー」 観客席の歌声もひときわ大きく響いていました。
5曲目は、「からたちの花」 日本の誇る北原白秋、山田耕筰の名曲です。
歌声はますます冴え渡り、皆さん心を込めて歌っていらっしゃいます。
6曲めも日本の歌、「初恋」
石川啄木の切ない歌詞と 何とも言えず美しいメロディーが、歌っている誰もの琴線に触れているようでした。
7曲目は、ピアノの前奏が高い人気を得ている「桜貝の唄」 歌い終わった後、どこからか思わずため息が聞こえてくるような曲でした。
8曲目は、夭折の作曲家 滝 廉太郎の「箱根八里」 難解な言葉の並ぶこの歌詞を、元気いっぱい歌いました。
9曲目は休憩前の曲で、「これは木陰で休憩している歌です。」とソングリーダーの説明のあった「オンブラマイフ」 イタリア語のみの歌唱でしたが、難なく歌われている方々が多いのにびっくりでした。
かつてサントリーのCMで
、キャスリーン・バトルが素晴らしい声で歌っていましたが、ヘンデルの美しいメロディーは、聴いているだけでも心を穏やかにさせてくれます。
ここまでの過程はつつがなく進んでいるようで、初の「歌声クラシック」を皆さん、心から楽しまれている様にお見受けしました。
曲毎に短く解説もあり、馴染みの薄い曲をより深く知ることもでき、気分はすっかりクラシックモードです。
後半は、ピアノソロで始まりました。 曲はピアノの詩人ショパンの「別れの曲」
聴き終ったところで、ソングリーダーの一言「この曲を今度は歌ってみましょう。」 と云うわけで、10曲目は「別れの曲」 聴いていた時とはまた違い、歌詞をのせると別れの実感がより湧いてくるようです。
11曲目は、「帰れソレントへ」 各国の名テノール達が歌い継いできたこの歌も大熱唱でした。
高らかに歌い上げた後の、瞬時の静寂もクラシック所以でしょうか?
12曲目は「ソルヴェイグの歌」 身体全体で導いてくれる ソングリーダー曰く「最も皆さんの視線を感じた」曲だったようです。
13曲目は、今回私が一番気に入った曲「メリー・ウィドウワルツ」
「男性がダニロ、女性がハンナに分かれて歌いましょう。」とのソングリーダーの突然の提案にも、皆さん動じることなく歌われました。
間奏時には、リーダーがワルツを踊り、そのサービス精神に場はいやが上にも盛り上がりました。
14曲めは「里の秋」
おそらく秋の歌の中でも最も好まれる歌の一つでしょう。 全員がしっとりと歌っていました。
15曲目は、ひと足早く年末のムードで、ベートーヴェンの第九「喜びの歌」 日本語、ドイツ語の順で歌いましたが、ドイツ語の方がより大きな歌声だったように思えました。
いよいよ最期の曲になってしまい、ラストソングに相応しい「家路」が選曲されていました。
別れを惜しむかの様に余韻を残した終了でした。
初の「歌声クラシック」は、満員の客席があたかも舞台に変わったかのような雰囲気でした。
何となく敷居の高いクラシックというものに、歌で参加することでより親しみを感じられたのではないでしょうか?
「上手に歌うことが目的ではなく、一緒に歌って楽しむこと」が歌声の醍醐味ですが、その真髄はクラシックに特化した今回の「歌声クラシック」にも十分に生かされていたと思います。
参加されたお客様の感想も概ね好評で、次回の開催を望まれる声も多く聞かれました。
この日のために作られた「ラウム歌集 70」には、今回歌えなかった珠玉の歌がまだまだたくさん入っています。
この「歌声クラシック」を取材され、大きく新聞に取り上げて下さった中日新聞の安藤編集委員が、いみじくも「時代が必要としている文化活動だと思う。」とのありがたいお言葉を寄せて下さいました。
ふだんの歌声活動は言うまでもなく、この「歌声クラシック」も末永く続いていくことを切に願って止みません。
神田陽子