2013年4月2日火曜日
復刻版!【今月の歌・語り】第5回目「朧月夜」 2000年4月掲載

今月の歌・語り
4月
朧月夜
高野辰之作詞
岡野貞―作曲
ラウム歌集525 37ページ記載 

菜の花畠に 入り日薄れ~…

、春霞、春雨、花曇―おぼろに風景が霞み、まるで水彩画のような淡い色彩が広がる日本の春。そんな季節のせいか、ついうつらうつら、「春眠暁を覚えず」の方もいるかもしれませんね。
 春の歌には美しい歌詞のものが多いですが、特に日本の伝統的な春の情景が浮かぶこの歌を、今月はご紹介します。

 2番の歌詞が少し分かりにくいという方が多いのではないでしょうか。里わは「里曲」で、里の辺りという意味。火影(ほかげ)は家々の明かりをさしています。だんだん森に暗闇が訪れる中で、田んぼの小道をたどって家路につく人、山里の日暮れになく蛙の声、寺の鐘の音。なるほど、一番から、二番にかけてだんだん日が暮れて、そして春の宵が訪れる、ゆったりとした時間の流れが感じられます。

 この曲は長く作詞/作曲不詳の文部唱歌とされ、作者名が明らかにされたのは戦後のことでした。その作者は、以前「故郷」でも紹介した辰之―岡野の唱歌のゴールデンコンビ。今も愛唱される数々の曲を残しました。「春の小川」「春が来た」もこのコンビの手によるもので、春の歌のゴールデンコンビでもあります。
 さて、作者の2人は、どのような情景を描きながら、この歌を作ったのでしょうか?詞を作った辰之にとっては、出身地、長野県の長峰地区の菜の花畑とする説が有力だそうです。長峰の小高い丘の前にある真宝寺の「鐘の音」がこの歌の中に響いているのでしょうか。
 
  一方の岡野は鳥取市の中心部の生まれ。「朧月夜」の碑がたつ生家近くは、かつて春になると、一面の菜の花畑だったそうです。後ろには標高200メートルの久松山(きゅうしょうざん)、岡野はこの山をバックに黄色い花が風になびいている夕暮れを心に描き、曲を作ったのではないかといわれています。

 のどかな春の宵を歌ったこの曲、「朧」という言葉に、春の空気感が見事に表現されているように思います。それぞれ心に浮かぶ春の情景を楽しみながら歌ってみたいものですね。



 
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